職人軽視の日本人が、建設業をダメにする(2016/11/5)

出典:東洋経済ONLINE ジャーナリスト 千葉利宏
http://toyokeizai.net/articles/-/59426

職人(技能労働者)不足が常態化している建設業界。これを解消するために賃上げや社会保険への加入など、職人の処遇改善は大きなテーマだが、最大の難関となるのが月給制の実現だ。

ゼネコン(総合建設会社)正社員の給与はもちろん月給制だが、いまだに技能労働者は日当ベース。職人不足で労務単価が上昇し、ようやく賃金も増え始めたが、再び職人が余って仕事の奪い合いになれば賃金下落は避けられない。

「いまこそ処遇改善の最大のチャンス」。建設業界関係者は意気込むが、いかに安定した給与が得られる労働環境を実現するか。労働生産性の高い合理的な建設生産システムの構築にかかっている。
欧州と日本で異なる職人の扱い

2014年暮れ。スウェーデンから3人の大工が来日した。輸入住宅メーカーのスウェーデンハウス(社長・岡田正人氏)が、日本人大工への技術指導を行なうために、正社員契約を結び呼び寄せたのだ。2020年をめどに実施が検討されている建築省エネルギー基準の義務化に向け、省エネ住宅の本場である北欧の大工から指導を受けて施工品質の向上を図るのが目的だ。

「木造建築の技能者が技術指導を目的に入国するのは初めてだったらしく、入国審査に1カ月も時間がかかった」

日本では、技能者のものづくり技術を「職人技」と言って称賛はするものの、ドイツのマイスター制度のように待遇や報酬にきちんと反映する仕組みがない。建設分野で現場施工者の技能の重要性が正しく評価されていないことが、入国審査にも表れたのだろう。

今回、来日したアンダッシュ・オスミール氏(49歳)などによると、スウェーデンにもドイツのマイスター制度と同様に大工の公的資格制度があり、住宅の建設現場には資格者が常駐することが義務付けられている。日本にも、厚生労働省が実施する技能検定制度という建設分野の技能士制度はあるが、設計を行なう建築士とは違って技能士の資格がなくても住宅を建てることはできるし、資格をチェックされることもない。

一方、スウェーデンで大工の公的資格を得るには、専門学校(3年)を卒業したあと、公的資格を持つ大工の下で6500時間以上働くことが条件となる。大工の平均年収は35万クローナ(約500万円)で、ノルウェーで働くと物価なども高いぶん、15~20万クローナ多く稼げるとか。住宅会社とは年間契約で、在職中は週休2日、さらに5週間の長期休暇も取得できる。

「大工の専門学校は人気が高く、いつも定員いっぱい。長期休暇には家族と友人でハンティングや釣りを楽しむよ」

かつての日本人大工は違った

日本でも20年以上前は大工に高い給与が支払われていた。ピーク時には年160万戸も作られていた住宅も、現在は年80~100万戸。1990年のバブル崩壊後の円高不況で製造業をリストラされた労働者を、公共事業の大盤振る舞いで吸収したのは建設業だが、2000年代に入ると建設業が厳しいリストラを余儀なくされてきた。

日当制の技能労働者は、仕事がなくなれば労務単価をダンピングしてでも仕事を取らざるをえなくなる。2008年のリーマンショック後には、時給500円の「ワンコイン大工」が登場したほど労務単価が下がり、職人が消えていった。日当制が続くかぎり、労働需給のバランスによって収入は不安定にならざるを得ない状態が続く。

元請け業者であるゼネコンが、技能労働者を直接雇用せずに日当ベースでの労務費支払いを続けたいのであれば、技能労働者に適切な仕事量を与え続けることができる労働生産性の高い建設生産システムを構築することが不可欠だ。


2015年の日本建設業連合会の新春懇談会でも、建設労働者の処遇改善とともに「労働生産性をいかに上げるかが重要だ」と清水建設の宮本洋一社長、前田建設工業の小原好一社長らが強調していた。彼らが言う労働生産性とは、職人不足でも効率的にものづくりができることに力点があるようにも感じたが、若年層を含めて優秀な職人を確保し続ける効果も期待できるだろう。

前田建設の子会社、JM(代表取締役社長・大竹弘孝氏)は、小口修繕サービスを効率的に提供するために職人に途切れなく仕事を与え続けられるビジネスモデルを構築してきた。セブン-イレブン・ジャパン、日産自動車、ユニクロ(ファーストリテイリング)、出光興産などの法人ユーザーと契約して定期点検や小口修繕、リフォームなどの仕事をJM本部のコールセンターで集約。全国57社のフランチャイズ店と専属の職人4800人、臨時の職人1万人で効率的に工事が行なえるようにITの活用を積極的に進めている。

JMでは、2014年に専属職人を対象に3000台のタブレット端末「JMパッド」を配布した。従来も本部のコールセンターに問い合わせれば仕事の紹介や作業指示をしていたが、「JMパッド」のアプリ『検索くん』を使えば、職人自らがやりたい仕事を検索できる。

能力が高ければ稼げる仕組み

「予定の仕事が午後3時に終わって、もう1件くらい仕事がしたかったら、今いる場所から近くの仕事の一覧を検索し、業務内容や報酬額で選んでタッチすれば、その仕事を請け負える。一定量の仕事をしたうえで、能力の高い職人はさらに稼ぐことができる」

「JMパッド」にはさまざまなアプリが搭載されており、コンビニのPOS端末のように、職人が効率的に仕事をするのに欠かせないツールとして進化させていく考えだ。

「フランチャイズを回った時、若い職人が『自分でも住宅ローンが借りられ、家を建てられた』と聞いて嬉しかった」と、大竹社長。安定した収入がなければ、いくら家を建てる技能があっても、自分の家すら建てられない。

国が進めている富士教育訓練センター(静岡県富士宮市)の拡充など若年労働者の教育・訓練体制の強化も大切だが、若者が将来に夢を持てる建設業をどう実現するか。自動車のような製造業との人材獲得競争はこれからますます激しくなる。


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