「外国人を入れても職人不足は解消に向かわず」(2019/6/24)

出典:東洋経済ONLINE
http://toyokeizai.net/articles/-/58981

職人不足が常態化している建設業で、4月から日本での研修経験のある外国人技能労働者の受け入れが始まる。公共事業を中心に労務単価の見直しも進み、一時期ほど「職人不足が深刻化している」との声も聞かれなくなった。
ただ、これもゼネコン(総合建設会社)の生産調整と消費税増税による住宅着工の落ち込みが主な要因で、根本的な問題が解消されたわけではない。今後は「若年層の人材を確保・育成するための環境を業界全体で構築しないかぎり、建設業の衰退が避けられない」との声も建設業界内で聞かれる。はたして建設業は産業構造を変革し危機を乗り越えることができるのか。
日本人並みの給料を払えるか

「ベトナムなどを中心に、再び日本で働きたいという外国人技能者はかなりいる。『日本人並みの給料を払ってでも受け入れたい』という日本側のニーズが今後どれだけ増えるかだ」

技能実習生の受け入れ事業を行なっている、東京都内の協同組合の幹部は外国人就労者の拡大に期待する。

東京五輪が開催される2020年度までの緊急措置として、政府が導入を決めた外国人建設就労者の受け入れ事業は、2015年1月から日本側で受け入れる特定監理団体の申請受付が始まり、国土交通省では専任デスクを設置。
2週間で数件の申請を受け付けたほか、申請準備のための問い合わせが相次いでいる。

現行の技能実習制度は、期間が最大3年。相手国の人材送り出し機関と業務提携した、日本の事業協同組合などが監理団体となり、技能実習生を紹介した受け入れ企業を指導・監査する仕組みだ。こうした監理団体は、全国に2000以上あり、うち建設関連は約400団体。過去に毎年約5000人の実習生を受け入れてきた。

今回の緊急措置では、在留中または帰国して1年未満の実習生は2年間、帰国して1年以上経過した実習生については3年間の特定活動との名目で期間を延長できる。実習生への給与は、都道府県ごとに定められている最低賃金でよかったが、実習経験者には入社4年目の日本人技能者と同等の待遇が求められる。それだけの給与を払って来てほしい外国人であれば、即戦力になるだろう。

「過去に建設技能実習の研修で来日した外国人の9割は中国人。再来日する外国人は限られるのではないか。やはり国内で人材をいかに確保するかが重要だ」。

建設専門工事業の全国組織、建設産業専門団体連合会の才賀清二郎会長は、外国人就業者への過度な期待に釘を刺す。まずは、待遇改善によって日本人の雇用を増やすことが先決というわけだ。
生産調整でひっ迫感薄れる

2008年のリーマンション後の2年間で建設技能労働者は27万人減の331万人まで落ち込んだ。その後、公共工事労務単価の引き上げや高齢者の活用で7万人ほど増え、国土交通省の建設労働需給調査でも今年度に入って不足率は低下傾向にある。一時期ほどのひっ迫感が薄れているのは、ゼネコンが職人を確保できる範囲内で出来高(施工高)を管理する、いわゆる生産調整が行われているからだ。

「施工体制を確保できる見通しが立たなければ、受注はしない。お断りしている案件もある」(準大手ゼネコン幹部)というのが実態。ゼネコン各社が今年度の受注計画を軒並み前年割れと予想しているのも「前年度に受注を取り過ぎた。手持ち工事が積み上がっており、今年度は無理に受注しなくてもいいという社内向けメッセージの意味もある」(大手ゼネコン首脳)と打ち明ける。

本来なら、若年層を中心に日本人の技能労働者を確保したいのだが、「都会で育った若者は建設現場では働いてくれない」のが悩みのタネ。建設産業専門団体連合会が傘下の14業界団体に昨年初めて行なった「雇用状況等に関するアンケート調査」では、回答のあった903社での2013年通期の若年層(10~30代)採用人数は2430人。うち新卒採用は4割にとどまった。

これから2020年に向けて、新国立競技場や選手村などの五輪関連施設、さらに品川操車場跡地、渋谷駅周辺、虎ノ門・赤坂地区、羽田空港跡地などの大型工事が続々と動き出す。

「現状では65歳を過ぎた団塊世代の技能労働者を呼び戻し、外国人を活用して『何とかしのごう』と考えている企業がほとんどだ。2020年が過ぎれば、反動減で建設需要が大きく落ち込むのを心配しているのだろうが、その時は団塊世代が完全にリタイアし、外国人もいない。ますます業界からヒトがいなくなる」

国土交通省幹部は、さらなる人手不足の可能性を否定しない。
「下請け叩き」が自らの首を絞めた

建設業の職人不足は1990年代後半から始まった処遇悪化が原因だ。それを招いたのは、重層下請け構造によるゼネコンの下請けたたき。かつては3K職場でも高い給料が稼げるのが魅力だった、建設現場への若年層の入職率が一気に低下し、高齢化が加速していた。

こうした建設業の産業構造は、前回の東京オリンピックが開催された1960年代の高度経済成長期、急増する建設需要に応じて労働者を効率的に確保するために確立された。10年ほど前にある準大手ゼネコン社長からはこんなエピソードを聞いたことがある。

「自分が入社した当時はからくりもんもん(刺青)を背負った社員もいて、トラブルがあるとツルハシ片手にトラックの荷台に乗り込んで現場に駆け付けたもんだ」

それから50年、技能労働者を正社員として抱えているゼネコンはない。1次下請け業者ですら抱えないようになっており、技能労働者を雇用しているのは2次下請け以下の中小零細業者。「受注量が大きく変動するなかで、ゼネコンみずからが技能労働者を社員として抱えるのは困難だ」(大手ゼネコン首脳)と直接雇用には相変わらず後ろ向きだ。

「製造業なら、工場労働者がトヨタ自動車の正社員になれるが、建設業では名前も聞いたことのない下請け業者にしか入社できない。しかも給与が製造業より1割以上も安い。若者が建設業に就職しないのは当然。業界に危機感が足りない」。国交省のある幹部も警鐘を鳴らす。

日本建設業連合会(日建連)は、3月にも人口減少社会に対応した未来型の産業構造への転換を目指す、「日建連中長期ビジョン」を策定する。2014年12月に公表した中間とりまとめでは、「担い手(とくに若年技能労働者)の確保・育成」を最重要課題に挙げるが、本当に産業構造の転換にまで踏み込めるのか。残された時間はわずかだ。



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